TRIUMPH SPITFIRE

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「もう何回目?秋のツーリング。」と貴女は言う。
辟易とした、というのとは違って、自分も楽しみなのをどこか人のせいにするように。
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今年も秋の訪れ。
この辺りまで来ると
短いブレスで花に勢いよく入る空気、思いがけず冷たくてびっくりする。
こういう瞬間に実感を覚えるのが、秋の訪れ、である。
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このクルマが私のもとへやってきてから、何年が経つだろう。
それこそ木々の色づく頃、あたりの人の足を止め、
視線を独り占めしてしまう君は、僕のガレージにやってきたね。
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夏から秋になり、やがて冬が訪れる、
この時季は君の御機嫌も微妙な移ろいを見せるね。
少しひんやりして、からっとしたこういう朝、
実は数えるほどしかないけど、こういう時はこころなしか上機嫌、違うかい?
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イタリーのクルマに乗っていた頃は「次があると思うな、今この瞬間を全力で走れ!」
なんだかそんなふうにクルマがけしかけてくるよう。まあ、何とも言えない女房役、常にそんな立ち位置で森を抜けたものだ。
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フランスのクルマは、いつだって「こんなはずじゃなかったんだが」、出会った時から過去を懐かしむようなところがあった。言い訳、とも違うのだけれど、どこかセンチメンタル。それをとがめる気にもさせないのは流石だが。
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その点イギリスから来た君は「まあ、結論を急ぐなかれ。」諭すようだ。止まっても、次がある。調子よくても、怠るな。いろんな意味でロマンチックなんだろうな。だからこうして、じっくりもう行く年も、ともに秋を迎えることができているのだろうね。そして、その過程のすべてが経験であり思い出。走りではなく、「君がいること」その全てが宝もののようだ。
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だからこそ、こうして改めてなつかしむのだろうね。
君が来て、そしてやがて貴女ががやってきたのだね。
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いつも髪をなびかせて、森の中を走ると、風と一緒になっている、と
貴女を見ると思うものだから。
今日も変わらず隣で風になる貴女。しかし風は二度と同じ風は吹かないのだから。
相変わらずだが、新しい。君と貴女とドライブに出るのはいつも新鮮な心地だ。
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「いつだって、はじめて。ツーリングというのはそういうものじゃないか?」
思い出があるのも、また明くる年も繰り返したくなるのも、英国車だからだろうな。
このクルマといるとつねに「ありがとう」と「頼むぞ」の両方が共存していると思う。
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それをずっと若い貴女は、年下の兄弟でも見るような眼差しで見ている。
そろそろエンジンが温まってきたようだ。待ってろよ! 今年の秋。
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photogrpher:Masaru Mochida
writter:Kentaro Nakagomi
model:Misaki Okuyama