L字に曲がっているシフトレバーを
操作する様子を何気なく見ていたら、
次第に胸の鼓動が高まり始めた。
細くて長い指。
少しだけ骨ばった部分に男性らしさを感じる。
初めて男性の手にどきどきした。
綺麗だと思った。
どきどきが加速する。
「暑い?」
私の顔の火照りに気が付いたのか、
「クーラーもないし、
走行風も入りにくい車だから……ごめんね」と、
彼は言ったと思う。
車内の振動と、
胸の鼓動が邪魔してはっきりとは聞き取れなかった。
彼が車を所有していることも、
彼の助手席に乗せてもらったのも、
ルノー4の存在も、
キャトルと呼ばれていることも、
今日、初めて知った。
帰り道。
偶然、方向が同じだったから送ってもらっただけのことだった。
独特の車内の振動とサウンド。
いつもの日常の風景が
キャトルから見ると非日常の風景に見えた。
胸の鼓動とキャトルの振動が共鳴する。
それは、
私を少し不安にさせ、
優しく操る彼の様子は、
とても大人で、
スマートで、
守られているかのような安心感をも同時に与えてくれた。
彼の手の魔法なのか、
キャトルと呼ばれている車のせいなのか……
あれ以来、キャトルを見ると心が勝手に反応する。
戸惑う、ときめき。
photographer:Masaru Mochida
model:Mari Asai
writter:S.T