お日様の匂いがするね。
少し埃っぽいね。喉が乾くね。
ずいぶんに年季の入ったベルベットのような。
思い出の中にはそんな類の思い出があるものさ。
君はもしかすると忘れてしまったかもしれないね。
しかし、ものすごい雨が降ってきて
大急ぎでいつもの道を走ったことは覚えているんじゃないのかい?
何故そう思ったか、僕にもわからないけれど。
あれの翌週のことだから。
とてものんびりした土曜日の午後
君は一人で港の方を眺めていたっけ。
青々とした木々は力強く若々しい。
出航していく船の汽笛の音が聞こえた時に
あなたはずいぶん大きなあくびをかいていたね。
君はもしかすると忘れてしまったかもしれないね。
しかし、せっかくいただいたさくらんぼの半分が
まだ酸っぱかったことは覚えているんじゃないのかい?
何故そう思ったか、僕にもわからないけれど。
あれの翌日のことだから。
とても月の綺麗な夜のことを君は、
そういいかけると君は私の口を制するように抑えたね。
なんのことか覚えちゃいないくせに。あの日のことなんて。
しかし
かすかな記憶と、妙に鮮明な思い出の泉。
そのくらいがちょうどいいのさ。
あの日に何があったのか。その時なんて言ったのか。
僕はもう忘れたよ。
あの日もガレージにいたムスタング。ちょっとこれで一回りしないかい?
photogrpher:Masaru Mochida
model:AIRI Nikaido
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writter:Kentaro Nakagomi