「いたし方のないことなんだよな・・・」
何が致し方がないかは不明である。
しかしそんなことをぶつぶつと言いながら、次第に細くなってくる深まる秋の日差しのさす列車に乗って出かけてきたのは、何も今日ではな久手もよかったのだが、今日出かけてきて本当によかった、と思った。
ふと降りた海辺の駅から、小道を進む。細い道は初めて来る道。だいぶ整備された車道とは違って、辻、分かれ道の類が一つ過ぎてはまた現れる、という感じ。おそらくかなり古い歴史と共にしてきたのではないか。そんな風情が漂っていた。
さワー、さワーと波の音だけが聞こえる。しかし、冷えては来る者のどこかのどかでぬくもりのある古い小道をただただ進む。
真夏のあふれて捨てても捨てきれないほどの日差しもご機嫌だが。この時期の、かすかな温もりを手繰り寄せ、尊ぶような日差しもなんとなく好ましい。そしてぬくもりにありがたみがあるものである。
と、そのとき前方からものすごい圧を感じた。海辺の街の散策をするときの私、緊張感とは無縁に弛緩していたのは反省しなければなるまい。
鎌倉から江の島方面に行くとこんな風なところもあるので、一瞬江ノ電の線路に迷い込んだのかと思った。しかしそれは電車ではなく自動車だ。最新のものに比べるといろんな部分で猶予のたっぷりとした音は懐かしいとむやみに表現したくなるものだ。
そして随分と立地にぺトロールを燃している風な熱量と挙動が、きわめて雄々しいいでたちながらもしかし優雅で、古風な雰囲気を醸し出す。
そんな車がふと路地を曲がる。そこを曲がるか!わたしは突っ込むではなく、驚嘆したものだ。
そして車が入った路地の先から大きなボードがぬうっと道を横切るように出てきた。サーフボードだ。ほう、この時期に。
たしなむ人からはそれほど寒くはないとは聞いているものの、それでも寒そうだが。寒暖ではない、波形の問題なのだろう。
そのボードが私の進む先を横切って進んでいった先を、追いかけて行って眺めると、その先には海が広がっていた。波は銀鱗の輝きで覆われ、先ほどのボードの主はストレッチもほどほどに、ボードに乗って波を追いかけていた。
海辺に向かう途中に一台の自動販売機があるので、そこで一本、コーヒーを、とにかく甘いやつである、購入した。無論温かいものをである。取り出したコーヒーをそのままぽっけに収めると、今しがた私が押したボタンに「売り切れ」の赤ランプがともる。
私はそのまま海辺に出て砂浜に座って、こめかみが痛くなるくらい甘いコーヒーを飲みながら、しばらく、先ほど私の前を横切って行ったサーフボードとその主が、湾というには入り江というほうがしっくりくる目の前の海を、右へ左へ、波をとらえるのを眺めることにした。
その点でいえば、これもまた「いたし方のないこと」である。
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photo:masaru mochida
writter:kentaro nakagomi