思い出の小箱
たしかこのあたりに・・・
バレリーナの人形が確かこのあたりにあったはず。
彼女に挙げる約束をしていてのびのびになってしまって
少し暖かくなってきたから、今日は朝から
ガレージ全開、物置全開で人形を探している。
小さいころ、押し入れの中にこもったことがあるでしょう。
大事なものをたくさん抱えて、ふすまを閉めると、
真っ暗な空間に閉じこもると、自分で入ったのに
暗闇が少し怖かったり・・・
このクルマを初めて見たとき、
そんな昔の思い出がふと甦るようでした。
小さいほどに思い出はたくさん。
ささやかでも荷物を積む場所がある。
このスペースが、少年の頃のココロをよみがえらせてくれる。
「ねえ、あった?」
僕が倉庫の中を探す後ろで、さっきから彼女はクルマで楽しそう。
ドアを開けたり閉めたり。
ひらりひらりと駆け抜ける小気味よさ。
スポーツカーではないけれど、どこへでも行ける身軽さ。
でもじつは、いっぱい積めること。
実際にはそんなに積めるわけではないけれど、
それでも、「いっぱい積める」ミニ。
ここがどうしてもいとおしい。
脇目も振らず遊ぶその様をを見ていると
なんだか君にもわかってもらえたような気がして
嬉しいな。
「いや、まだ。・・・おかしいなあ、この辺にあったはずなんだけど」
僕は一心に探し続けているように返事をした。
ほほを撫でる風、いよいよ春である。
photographer:Masaru Mochida
model:Rina Koizumi
writter:Kentaro Nakagomi