手に入らないから宝物
いつだってそうだった。
欲しい欲しいと思うもの、
これは絶対手に入れてやる!
そう思ってはみてみるものの、
どうしても手に入るのはそれじゃない。
隣のもの、別の色。
何かがちょっとだけ、少し違うんだ。
でもこのワーゲンバスはちょっと違う。
内外装の色とも、型も。
昔読んだ絵本やカートゥーンにも出てたっけ。
このマーク付いてればいい、とはいくものか。
初めて見たその瞬間から。
これしかない!!
そういう運命的なものを感じていた。
「これは絶対手に入れてやる。そして宝物にするんだ。」
自分に言い聞かせるように、
そして、決意するように、
このワーゲンバスを見たとき、そう叫んだ。
こころの中で、だと思うが、もしかたら声に出していたかもしれない。
とすら思うほど、強い決意だった。
そして、このバスでゆっくりと海岸線を流すんだ・・・
「きみも来るかい?」
それなのに。
それなのに、またか。
きみも来るかい?なんて言わなければよかった。
オンナというのは自分が中心に世の中が回っている、
と思っている。いつだってお姫様だ。
きみが現れたことで、またこのクルマを宝物にはできないだろうね。
いつだってきみはそうだ!!
全部自分が輝くための小道具くらいにしか思ってないんだ。
そうやって、クルマの中をまるでじぶんの部屋みたいに寛ぎやがって。
それじゃ「ワーゲンバス」じゃなくて
「君の部屋みたいなワーゲンバス」じゃないか!!
きみがいるのは想定外だったな。
いや、想定はしていたものの、誤算だ。
だって全部君が「持っていく」んだから。
ついに我慢できずに言ってしまった。
「オンナの人って女優かお姫様にでもなったつもりかい?」
割と間髪入れず彼女はこう返してくる。
「まあね。いずれにしても男の人が期待してるみたいに飾り物じゃいやだけど。」
僕は返すこともできず。
「走ろうか、少し。」
少しおいてそういった。でも、悪あがきをするようにこれだけは間髪入れず続けた。
クーラーないから、窓全開だぞ。これだけは譲らないからな。
彼女は顔をくしゃくしゃっとさせ、「お好きにどうぞ」というように笑った。
男はクルマを宝物にしたいのである。昔ミニカーやおもちゃをそうしたように。
結局は「彼女も含めて」という但し書きをつけて妥協するのが常!
だったりもするのだけれど。
強がってる?強がってないさ。
子供っぽい?・・・それは否めない。
photographer:Masaru Mochida
model:Yuka Omata
writter:Kentaro Nakagomi